第0回 ごはんが食べたいから
2016/07/02
都内某所にて、sakecyadukeさんとお会いしてきました。sakecyadukeさんは院生・20代・女性。
恋愛の話をしてくれませんか、とお願いしたら、彼氏さんとの馴れ初めを教えてくれた。
彼氏さんとは、大学が同じなので知り合ったという。ある日、ちょっとしたきっかけからごはんに誘われて、そこから仲良くなった。
「彼はちょっとふしぎなひとで、向こうから誘われたけれど、下心のない感じがしたんです。あ、このひと、ただ自分がごはん食べたいから誘ってるんだろうなって。そういうオーラがあった。だからこっちも気楽だったし、はじめは恋愛対象として見ていなかったんです」
ごはんを食べたいから誘ってる、というところが、なんともいいと思った。世の中には、ちっともごはんを食べたいわけではないのに、ごはんに誘う男がごまんといる。よく考えてみたらおかしな話だ。
この彼は、異性として見る以前に、ひとりの人間として、彼女を見ていたのだろう。それはとても大切なことに思える。ときめかなければ付き合えないけれど、ときめきだけでは続かないもの。
ふたりの付き合いは、ごくスローなペースで展開した。月に1、2度のごはんを、半年ほど続けた。ついに彼から告白されたけれど、その場ではびっくりして「困る」と言ってしまった。
「考えるって言っちゃったんです。それで、1ヶ月後に返事をして」
「1ヶ月も考えていたんですか!笑」
「はい!その間にもごはんに行って。笑」
「そのとき、彼は?」
「ぜんぜんふつうでした」
話を聞いているだけで、彼氏さんの優しさ・穏やかさがつたわってくるようだった。どうして付き合うことに決めたのかと訊くと、彼女は「彼といると楽しいし、好きなものが似ているんです」と言う。
「お互い、猫が好きで。あと、彼はピアノがひけるんですけど、わたしもすきで。クラシック音楽も聴くんですけど、わたしもすきで。彼は、けっこう自分から『ここに行こうよ』って提案してくるんですけど、それが、わたしが行きたいところと同じなんです。示し合わせたわけでもないのに。あっ、それ、いいなって思うんですよ」
「どんなところ?」
「温泉とか、水族館とか、滝とか」
「滝!笑」
「本当に、いろいろ。笑 突然、『山の方まで行かない?車に乗って』とかいうんですよ。笑」
にこにこと話す彼女はとても楽しそうで、ふたりは波長が合っているんだろうな、と思った。お互いがごく自然体で、そのもともとの自分の姿が、相手の姿にぴったりはまっている。たぶん、パズルみたいに。余談ですが、彼女の話を聞いて、わたしは吉本ばななの「西日」という短編を思い出しました。