縁廻る企画

出会ったひと、お話ししたこと、感じたこと、その記録。

第7回 ネガティヴを見つめる 2/2

 

shubonbon.hatenablog.jp

 

☝こちらの記事の続きです。 

 

【もくじ】

 

▼理系の文章が好き

か:本好きという薄井さんですが、オススメの本はなんですか?

薄「雑誌ですけど、TOKYO GRAFFITTYですね。オススメです。最近、いろんなひとの部屋の特集っていうのがあって、ナンバーワンホストの部屋とか、パンクロッカーカップルの部屋、ラブドールと暮らす人の部屋ミニマリストの部屋……などなど、たくさん部屋の写真が載っていて、面白いんです。TOKYO GRAFFITTYはいろんな人に取材するのが多いから楽しいですね。ギャル会話、オタク会話っていう回もよかったです。専門用語に注釈がつくんですよ(笑)」

TOKYO GRAFFITI WEB|東京グラフィティ

*ここに出てくる、「部屋の特集」をやっていたのは136号。アプリをダウンロードすれば、まだ¥240でバックナンバーが読めますよ。わたしもダウンロードしちゃいました!


薄「小説では、江國香織さんが好きです」

か:そういえばしらすさんも、江國香織さんが好きだと言っていましたね。やっぱり人気なんですね、江國さんは。

薄「あ、わたしがしらすさんに薦めたのかもしれません」

か:なるほど!わたし、江國香織さんってまだ読んだことないんですけど、オススメはありますか?みなさん好きな作家に挙げるので、そろそろ読んでみたいな、という気になってきました。笑

薄「きらきらひかるですかね。ゲイの旦那と結婚した、精神疾患のある女の人の話……とだけ言うと、壮絶そうですけど(笑)あんまりギスギスした感じじゃないですよ。女性は、旦那さんと旦那さんの恋人と仲良くしたくて、でもご家族はそういうことを許さなくて、そこに葛藤がある。そういう、社会のしがらみからちょっと離れたような三人の仲良しな感じと、親御さんの齟齬が対照的に書かれています。途中で"羊羹のような闇"って表現が出てくるんですけど、そこが好きなんです。笑」

か:羊羹!やはり自分で書くひとは目の付け所がちがいますね。文章にはこだわるほうでしょう?笑

薄「そうですね(笑)私「はい。」みたいなカギカッコの中の最後の文章に"。"がついてるのは嫌なんです。ダメ!違う!みたいな。そこじゃない!みたいな。許さないです!笑」

か:あ、めちゃくちゃわかります。わたしも嫌なんですよ、それ。笑

薄「文章の改行にもこだわっちゃいますよね」

か:わかります!改行がなるべくキリのいいところになるように、平仮名にしたり漢字にしたり、文字数を調整したり。笑

薄「私、理系の人の文章が好きで」

か:わかります……わかりますよ……。

薄「すごく端的なんですよ。理系の人って簡潔な文章ですよね。あった物事を正確に伝えるってことを求めてるから。単語を多く使うんですよ。その感じが!よくわかんないけど!凄く好きで!文系とは違う、小気味いいリズムがありますよね」

か:本当にそうです。わたしは簡潔な文章が好きなので、たとえば論文とかでも、文学系のものより理系のもののほうが読んでいて文章が好きだなって思います。

薄「作家で言うと、茂木健一郎さんとか。森博嗣さんも工業大の学者さんなので、理系よりの文章ですね」

か:そうなんですか!知らなかったです。たしかに森さんは理系っぽい……。


▼意味がわからない文章を書きたい

か:まさか文章トークでこんなに盛り上がるとは思いませんでした。

薄「でも私、文章に意味があるのが嫌になる時があるんです」

か:意味があるのが嫌……と言いますと?

薄「うーん、みんな文章でなんでもわかろうとするじゃないですか。あたりまえに、文章で感情が伝わることが嫌で。たまに、読み心地はいいけど、意味がわからない文章、を書きたい時があるんです」

か:なるほど。アジカンのひともそんなこと言っていました。あえて歌詞から意味を失くした、言葉遊びみたいな曲を作っていたんですよ。


All right part2という曲です。詳しくはこちらを☟

アジカン新曲2曲収録のコンピレーション。新曲のテーマとは? | スペシャル | EMTG MUSIC

 

薄「いろんなものに意味を持たせるのは大変ですよね。文章なんか、ただの道具だって思う時があるんです。何か伝えたい、けど、伝えたいことは必ずしも文章化するわけじゃない。なんとなく文章の言外にある雰囲気を受け取ってほしい。こう書いてあるからこう、じゃなくて、文章全部をなぞってふわっと受け取ってほしい時があります」

か:その点では、絵みたいな、アートのほうが良いですよね。文章というか、言葉って、具体的すぎるんですよね。

薄「そうですね。絵は、どんなに正確に描いてもどこか抽象的になると思います」

か:何か伝えたい、と言っていましたが、薄井さんが伝えたいことというか、表現したいことはなんですか。

薄「私、暗いものばっかり書いてるんですよね。これでもすごいポジティブになったほうで、高校のころはもっとネガティヴでした。人間、点滴とか、泥水すすってなんぼ、みたいな気持ちがあって。私の意見ですけど、楽しいとか、明るいっていうのは深みがないような気がするんです。悲しい、苦しい、憎いっていうのはすごく深いから、そういうのを体験するのは好きですね。そっちのほうが、表現しがいがあるし。だからネガティヴ寄りの感情が好きな部分はありますね」

か:ネガティヴな感情を体験するのが好き……!そんな感じ方もあるんですね。深いです。

 

▼目を逸らさない強さ(総括に代えて)

薄井さんはとてもおっとりしていて、お話ししていると薄井さんワールドに引き込まれていく感じがしました(!)ほわんとしていながら思想の深い方で、お話ししていておもしろかったです。薄井さんは「楽しいとか、明るいっていうのは深みがないような気がする」「悲しい、苦しい、憎いっていうのはすごく深い」と仰っていましたが、だからこそ、看護師さんとして働いていらっしゃるのかなと後から考えていて思いました。病気や死といったネガティヴなことを、きちんと見つめることができる、とても勇敢で強いひとなのだと思います。

ちなみに、このインタビュー後、一緒に本屋さんへ行き、わたしは『きらきらひかる』を購入しました。すぐに読みました。美しくて、優しくて、ちょっと涙しそうになってしまうくらい、素敵な小説でした。みなさんもぜひ読んでみてください。笑

きらきらひかる (新潮文庫)

きらきらひかる (新潮文庫)